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八尋祥吾「挫折と挑戦。そして“ラグビーが好き”と言えるまで」

2025/09/12

ラストシーズンを迎えた4年生のラグビー人生を振り返るラストメッセージ。
第1回は、八尋祥吾(4年/主将,FL/東福岡)です。

 



5歳の頃、福岡県のかしいヤングラガーズで楕円球と出会った。小学6年生の県大会で優勝、中学校でも自チームでは全国大会準優勝、福岡県選抜としては全国大会優勝。

輝かしい戦績を残した、かしいヤングラガーズでも福岡県選抜でもキャプテンとしてチームを背負った。
結果だけを見れば“エリート街道”まっしぐらのラグビー人生だ。


だが、八尋自身は長い間「ラグビーを好きになれない」まま過ごしてきた。

「嫌いでしたね。タックルが怖いとか、練習がきついとかじゃなくて。体も大きかったし、足も速かったからある程度なんでもできてました。けど、『なんで自分はラグビーをやってるんだろう』って思ってました。」

ラグビーを始めた幼少期、当時国内でのラグビー人気が今ほどではなかった時代に、競技自体になかなか魅力を見出すことができなかった。



「ラグビーをする理由」を問われ、彼は少し考え込んでから答えた。

「ラグビーほど激しいスポーツはないという、競技の魅力に囚われているんだろうな、と思います。でもラグビーを“選んだ”というよりは、“手放せなかった”って感覚の方が近いです。これがなくなったら、自分は何をするんだろうって。手放したときにここまで熱中できるものは他にないと思いました。」

それは不安ではなく、むしろ前向きな決意だ。
激しさの中にしか存在しない熱狂。それが、ラグビーと結びつけられ続けている軸だった。

苦しいときに体をぶつける。
仲間にその背中を見せ、フィールドから鼓舞し続けるという、プレースタイルを持ち続ける理由でもある。



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東福岡での悔恨、青学での挑戦

東福岡に入学した八尋。
高校1年次、2年次でも花園では準決勝敗退となったが、1年次から花園に出場し大きく爪痕を残した。

高校3年次には、"ヒガシ"のキャプテンを務めた。
春の選抜大会では、決勝で桐蔭学園に15点の差をつけ優勝。輝かしい戦績を残し、周囲からは「最強世代」と称された。

そんなチーム内外での期待を背負い、高校3年次の花園で掲げた目標は「全国制覇」。
しかし、花園準決勝で東海大大阪仰星に敗れ、目標を達成できずベスト4に終わった。
キャプテンとして、誰よりも"ヒガシ"の重荷を背負ったが故、ショックは大きかった。



悔しい思いを胸に、青学に入学。
そこで待っていたのは、高校時代とはまた違う苦悩の日々だった。

2年目まで掲げていた『大学選手権出場』、昨年の『大学選手権ベスト8』という目標。
どれも3年間、達成できなかった。
勝利を重ねてきた高校時代までとは対照的に、もがき続ける時間が長く続いた。


青学に入学し、彼を取り巻く環境や勝利への意識は大きく変化した。
チームへ期待することは、時に苦しさが伴うのではないか。

1、2年次を振り返り八尋は、「純粋に人に求めるのをやめていた」と語った。
「青学という環境の中で正直諦めてしまっていた部分が大きかったと思います。東福岡のときなら周りに求めていたけど、まず、自分がやるっていうのを一番に(考えた)。人がどうであっても、自分のやるべきことは自分でやり続けました。」
 



しかし今年度の4年生は、全員がLeaderTeamに所属し、戦術・フィジカル・マネジメントといったそれぞれの分野に責任を持ちながら、全員でチームを牽引しようという意識が印象的だ。
八尋を中心に、新年度のチーム始動時から同期で助け合いながら戦っていた。

そこに至るまでには、心境の変化があった。

「去年の選手権出場を境に、『このチームの可能性』というところを見ました。凌馬さん(昨年度主将河村凌馬)に焚きつけられたというか。結果を出せるチームであるなら、もう一回期待したい。その分自分自身はもっとやらないといけないけど、それでもそれ以上にチームに可能性があるならやり続けたいと思いました。」




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ラストシーズンに向けて


「高校時代までは、勝つことのほうが多いラグビー人生でした。けど、青学に入学して3年間はうまくいかないことの方が多かった。今年、4年目のチャレンジ。今年こそは結果を。ベスト8にいきます。」


対抗戦 慶應義塾大学戦を皮切りに、彼のラストシーズンが始まる。
青学史上最高目標の『大学選手権ベスト8』をチーム全員で掴むために。

八尋は青学に、努力と成果とを結びつけるひとつの基準を残したいと語った。
青学がこれから強くあり続けるための礎となり、ピッチに立つことへの憧れを次代へとつなげたい。そのために、自らが最前線で苦しい場面ほど体を張り続ける。


「最後の質問です。今ラグビーは好きですか?」
「大好きです。」

やりきれなかった高校時代、満足のいく結果を残せなかった青学での3年間。
これまで完全燃焼しきれなかった彼が、「勝てない苦しさ」と向き合いながら見つけたものは、ラグビーを“好き”と言える自分自身だ。





インタビュアー:利守 晴(2年)
ライター:内山 りさ(2年)