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荒川真斗「ここまでもやるか。細部に拘る“当たり前”」

2025/10/16

ラストシーズンを迎えた4年生のラグビー人生を振り返るラストメッセージ。
第4回は、荒川真斗(4年/LO,FL,No8/國學院久我山)です。

 

先月行われた対抗戦 明治大戦。
メンバー変更により、前日に急遽ゲームキャプテンを担うことになった荒川。

アクシデントによってメンバーが10人入れ替わり、チームが動揺に包まれる中、彼だけは迷いなく口を開いた。


「こんなに土壇場でメンバー変更が決まるケースは、今までも、今後のラグビー人生でもなかなか無いと思う。俺も今まで対抗戦戦ってきた中で、初めてのゲームキャプテンで、初めてのポジション。

だけど、今、すごくワクワクしてる。
このメンバーで、秩父宮で、明治相手に、80分間闘い切った後に見える景色ってどんなんだろうって。
初めて対抗戦に出る選手も、みんなこのワクワクを大切にしてほしい。楽しもう。」


誰よりも重責を背負った彼の前向きな発言が、チーム全員の“覚悟”を定めた瞬間だった。




彼が厳しくチームに求めるのは、細部に拘るその“当たり前”を、日々どれだけ徹底できるか。
「“荒川うるせえよ”って言われても、言い続けます。それをやめたら文化は戻るから。」

彼の信念はシンプルで、熱い。

青学が「本気で勝てるチーム」に変わるためには、誰もが“ここまでやるか”と思うほどの姿勢が必要だという。


「どんな練習もクオリティと熱量を下げない。
その姿勢を受け継ぐ人が出てくるまで、言い続けるし、自分自身も体現し続けます。」





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孤立から始まった挑戦

高校3年次、荒川は変革の途上にある青学への進学を選んだ。


「青学が“チャラい”“緩い”って言われてた文化を壊して、本気で戦えるチームに変えようと思いました。」

 しかし、入部してすぐは、彼の理想は受け入れられにくく、真剣に取り組もうとすればするほど、周りとの温度差が浮き彫りになった。

 「“そんなに真面目にやりたいなら他のチームに行けばよかったじゃん”って言われたこともあって。グラウンドでは孤立してる時期も多かったですね。」


そしていつの間にか、「チームを変える」という決意は薄れつつあった。



転機は3年次。
主将に就任した河村凌馬(24年度卒)、そして新コーチ陣を中心にチームの空気が変わり始めた。

 「凌馬さんは本気で文化を変えようとしてました。その姿を見て自分も、もう一回“変えたい”って想いを取り戻したし、その分周りに期待するようにもなりました。」




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あの雨の秩父宮が変えた価値観


印象に残る試合を問うと、荒川は昨年の対抗戦 筑波大戦を挙げた。
雨の秩父宮ラグビー場。青学が挑んだのは誰もが格上と見なしていた筑波大だった。

 「100人中99人は、筑波が勝つと思ってたと思います。」

ロックとして体を張り続け、熱い攻防戦の中、
後半28分、自らのトライで点差を広げ、勝利へ導いた。


 「“誰もが負けると思ってた試合”をひっくり返す、いわゆるジャイアントキリングを起こしたのはラグビー人生で初めてで。トライもできてPOMも貰えた、あの雨の秩父宮の景色は今でも鮮明に覚えています。」


そしてその勝利をきっかけに、青学は30年ぶりに大学選手権の舞台に立った。
京都産業大に敗れたものの、その第一歩はチームに大きな自信を与えた。


 「ここまで作り上げつつある文化を継承する、というよりはさらに進化させた文化を根付かせたい。元の青学に戻しちゃいけないと。そのために、最後まで言い続けたいです。」



前年度のチームの変革を、無かったことにしたくない。
しかし、それに苦労が伴うのは想像に容易い。

「俺が入学した頃と今とでは、全く別の文化があって、その変革の中にいるのは大変だし、孤立した時はしんどかったです。でも、それでももがき続けて、青学に新しい文化を根付かせることに繋がったというのは、自分の成長にも自信にもなりました。」





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ラストシーズン、青学の未来へ


ラストシーズンを迎えた彼の目標は明確だ。
 「選手権ベスト8」

結果を残してはじめて、過程は評価される。

「これからのAGRに残せる文化はつくれたと思うし、自信を持てる準備もしてきた。楽しかったね、頑張ったね、って言えるだけの過程も残したと思う。けど、勝ってこその過程。
“勝つために、文化を変えたい。”
最初に抱いたこの想いを形として残すために、ベスト8へ必ず行きます。」



これまでの苦しさも、今では糧になっている。

「よく親父が言っていた言葉があって。 “きついことがあった分だけ、楽しいことがある。”」

 「辛いときはそんなこと信じられなかったですけど。
試合で勝とうと思ったら、その分だけ走って、タックルして、ハードワークしないといけないし、きついことをしなきゃいけない。そのきつさと引き換えに、勝利という大きなものを手に入れられるんだと、今では分かります。」





「ここまでもやるか」

どんな妥協も、もうこのチームは許さない。
荒川が信じた“細部への覚悟”は、これからも青学の礎となる。



インタビュアー:利守 晴(2年)
ライター:内山 りさ(2年)