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入野太一「不完全から始まった両立。ここで見つけた”自分の意志”」

2025/10/23

ラストシーズンを迎えた4年生のラグビー人生を振り返るラストメッセージ。
第5回は、入野太一(4年/No8/横須賀)です。


横須賀高校3年の秋。
新型コロナウイルスの影響で、思うように練習ができず、時間だけが過ぎていった。
迎えた秋季大会も、準備不足のまま出場し、気が付けば引退を迎えていた。

やり切ったという感覚はなく、胸の奥に残ったのは“もっとできたはず”という悔い。
そのわずかな未練が、入野を再びラグビーの世界へと向かわせた。


ただ入学後、環境は大きく変わった。
一般入試で青学に入学した浪人生の彼は、強豪校出身の同期たちの実力に圧倒された。

「なんとかして追いつかないと」そんな焦りと不安から、どこか引け目を感じていた。

入学してすぐの頃は特に、部活だけでなく、大学の授業や実験にも慣れず、忙しない日々に追われた。
「授業で実験が多くて、レポートも手書きで、慣れていないうちは本当に大変でした」


それでも、心の中で決めていた。

“文武両道を貫く”。

「部活と学校、どっちかじゃなくて、どっちもやる。大事なのは、自分の意志を持って選び続けること。」



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“できない自分”を受け入れるまで

3年次の春。
それまでウイングだった入野は、FWにコンバートした。

プレーの感覚も良くなり、評価もされはじめ、
春季大会初戦では、FW歴3ヶ月未満にも関わらず、先発メンバーとして8番を背負った。

そんな中で肩を負傷。
手術が必要になり、長期離脱を免れなかった。

先発メンバーとして意気込んだ矢先、モチベーションは下がり、復帰の道は遠く感じた。

結局3年次はほとんどプレーすることができず、長くリハビリを経て最上級生に。


その一方で、学部の研究室に所属してからの生活は、さらに厳しいものだった。

実験や発表の準備、レポート作成に追われながらも、朝練は欠かさずグラウンドへ向かう。

研究室に間に合うよう練習を早退し、そのままキャンパスへ移動する。
そして研究室の合間を縫って、キャンパスでウエイトトレーニングをこなす。

忙しさだけで言えば、研究室に通う今が一番大変だという。


それでも、これまでの経験が支えになっていた。

「両立しようとすると、完璧を目指して、やる前から“無理かも”って諦めてしまう人もいると思うし、自分もそうでした。それでもこの4年間を通して、完璧を求めすぎて潰れてしまうより、結局自分で決めたことをやりきることだと思うんです。」


苦しさの中で培われたのは、忍耐力と、環境に適応する力。
「部活と研究、どちらも自分を試される場だった」と語るように、両立を模索する中で彼の芯は磨かれていった。



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仲間と迎えるラストシーズン


ラストシーズンを迎えた今、これまでを振り返って。

「正直、3年生のときは“早く引退したい”って思ってました。怪我でモチベーションが落ちてたし、両立が苦しかったから。」


でも、いざその日が近づくと、心に浮かぶのは違う感情だった。
「悔しさより、寂しさです。毎日会っていた仲間と離れるのがいちばん寂しい。」


入学当初、推薦組のレベルに圧倒された。
けれど、グラウンドを離れれば、そんな差は関係なく笑い合えた。

「同期が好きなんです。同期が良かったから、ここまで続けてこられたと思います。」


苦しい時も、彼を支えたのは同期の存在だった。

印象に残った試合を問うと、自身が初めてAチームで先発出場した、3年次の春季大会 日本体育大戦を挙げた。
「仲の良い純(4年 宗像純)が、試合直前に急遽スタメンで出ることになって。一緒に出られるってわかったときのワクワク感は、今でもよく覚えています。」

そう語る彼からは、仲間と過ごした時間の深さが垣間見える。



最後に、決意を口にした。

「今は試合に出られていないけど、ジュニアも含めて一つでも多くの試合に出たい。そして、同期や後輩と一緒にグラウンドに立って、自分が納得できる最後にしたいです。」



いつも明るく周りを照らし続ける彼が、今、後輩たちに伝えたいこと。

「研究も授業も部活も、全部大変だけど、いちばん大事なのは自分の意志を持つこと。」



入学時に掲げた“文武両道”という言葉。
その意味を、4年間で自分なりに見つけてきた。


仲間と笑い合いながら、最後まで走り抜く姿が目に浮かぶようだった。

 



インタビュアー:利守 晴(2年)
ライター:内山 りさ(2年)