田中太陽「後悔はいらない。ただ、勝つために。」
2025/11/03
ラストシーズンを迎えた4年生のラグビー人生を振り返るラストメッセージ。
第9回は、田中太陽(4年/HO/常翔学園)です。
インタビューの最後にいつも尋ねる質問がある。
「これまでの負けを通して、得たものはありますか?」
多くの4年生は悔しさや学びを語ってきたが、彼の答えは全く違うものだった。
「“負け”って結果だけ。もうその試合には戻れへんからな。」
淡々とした口調の奥に、揺るがぬ覚悟がにじむ。
“負けから学ぶ”という言葉を拒むように、彼はただ結果を追い続ける。
その信念こそが、彼のラグビーの根底にある。
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苦い原点
彼にとって、忘れることができない重圧を体験したのは、大学1年次。
1年生ながら対抗戦の全試合で先発していた。
その第5節 筑波大戦。
ノットストレートを何度も取られ、ラインアウトの獲得率はわずか12%。
レフリーの判断に合わせてその場で修正することも難しく、頭が真っ白になった。
自分のミスをきっかけに幾度も後退していくチーム。
その現実をただ見つめるしかなかった。
その中で2番を背負い続けることのプレッシャーは計り知れない。
しかしその苦い経験が、彼の原点になった。
「今でも、あの試合以下はないって言い切れる。本当にきつかった。
でも、あの試合があったから、どんな状況でも自分を立て直せるようになったと思います。」
1回のミスに動じて落ち込めば、試合の中で修正することはできない。
逃げ場のない状況で、いかに自分と向き合うか。
それこそが、彼がラグビーと真剣に向き合う上での軸になった。
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常翔で刻まれた“芯”
大阪府八尾市で育ち、父親の勧めで小学校2年からラグビーを始めた。
高校は名門、常翔学園へ。
伝統と規律の厳しい環境で、心身を追い込まれた。
「理不尽なことが多かったです。負けた試合の後に雨の中2時間走らされたり。
でも、そういう環境でしか学べないこともあったと思います。」
ラストシーズンの花園では準々決勝敗退。結果はベスト8。
それでも、田中の中に「悔い」はなかった。
「やり切ったな。」
短い言葉の奥に、あの3年間を逃げずに闘い抜いた実感がにじむ。
苦しさや重圧に向き合い続けた経験が、田中の“芯”を作ったのだ。
その後、対抗戦への憧れを胸に青学へ入学。
入部してすぐ、上級生との練習に合流。
新しい環境の中でも地道に積み重ね、気づけば1年目の夏にはAチームに定着していた。
そこから先発として経験を重ね、チームの一員として存在感を示していく。
そして3年次、チームの体制が大きく変わる中で、ディフェンスリーダーという重要な役割を任された。役割とともに、上級生としての自覚が芽生えた。
その年、チームとしては快挙の、30年ぶりの全国選手権出場。
全試合で先発し続けた彼の貢献も大きかったに違いない。
しかし昨シーズンを振り返り、彼は悔いの残るシーズンでもあったと語った。
「1番は、慶應戦で敗れたこと。また勝ちきれなかった。
他の試合も勝てたけど内容が良くなかったり、細部を振り返ると悔いは残ります。だからこそ、今年は悔いを残したくないです。」
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結果で語る
迎えたラストイヤー。
今春から内容のある試合が続き、今までに無いほど良い収穫を得た一方で、「いい夏とは言えなかった」と合宿期間を率直に振り返る。
秋シーズンで勝ち抜くことを見据え、“完成”というスローガンのもと行った菅平合宿。
Aチームは一戦も白星を挙げることができなかった。
その2週間後。
対抗戦初戦の慶應義塾大戦では、“策に溺れた”。
「絶対に勝ち切らないといけない相手だと意識しすぎた結果、本来の青学のラグビーを見失った感覚でした。小手先の戦術に頼って、軸を失ったような。
負けて得る収穫なんてなかったです。負けたという結果しか残らなかった。」
「どんなに後悔しても、もう戻れへん。」
行き場のない悔しさを抱えた。
だからこそ、結果を残したい。
その想いが、残る試合への原動力になった。
「今年1年自分たちがやってきたことに立ち返る。」
今年1年の取り組み。そしてこれまでの4年間の積み重ね。
軸を持ち、結果で示す。
どんな局面でも、逃げなかった。
負けから学ぶのではなく、“勝つために”学び続けた4年間。
泣いても笑っても、これが最後のシーズン。
勝って終わる。そのためだけに、ここまで積み上げてきた。
インタビュアー:利守 晴(2年)
ライター:内山 りさ(2年)


