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平澤温人「“今日という日は、もう来ない。” 悔しさの先に見つけた覚悟」

2025/11/08

ラストシーズンを迎えた4年生のラグビー人生を振り返るラストメッセージ。
第12回は、平澤温人(4年/SH/天理)です。


 




「今日って日は、もう来ない。」


平澤がそう口にしたのは、ラストシーズンを迎え、これまでの歩みを振り返ったときだった。
何気ない一言のようで、その奥には悔しさも、感謝も、そして覚悟も込められていた。

彼の言葉の意味を辿ると、そこには一本の軸が見えてくる。


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“当たり前じゃない”ことへの気づき


平澤がラグビーと出会ったのは、中学1年生の春。
入学した河合第二中学校の体験入部で、初めて楕円球を手にした。

身内にラグビー経験者はいない。
それでも、あの日の高揚感が、平澤をこの競技に惹きつけた。




その後、天理高校に進学。最初に声をかけてくれた縁を信じた。

しかし、待っていたのは想像を超える厳しさだった。
「オフも少ないし、練習も上下関係も厳しくて、刑務所みたいでした。」




寮生活も過酷だった。
月に一度の日直では、午前4時起床。

全員分の洗濯と朝食の準備、片付けをこなす。
洗い物当番になれば、4人で80人分の食器を洗うこともあった。

今では、そんな過酷な日々も笑って話せる思い出だ。当時の苦労があったからこそ、今の自分がある。




そんな日々の中で、平澤の心に変化が生まれた。
「掃除とか洗い物とか、ご飯とか。全部、当たり前じゃなかった。あの生活で、親への感謝も自然と増えました。」




過酷な環境は、彼に“感謝”という気づきをもたらした。
忍耐とともに、人としての芯を育てた天理での3年間だった。





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立ちはだかった現実


一方、グラウンドでは無情が待っていた。
二度の前十字靭帯断裂が、平澤を襲う。



一度目は中学3年、奈良中学校選抜として挑んだ関西大会の直前。
引退まであとわずか1か月──そのタイミングでの負傷は、あまりにも残酷だった。

最後の試合に立てない無念が、胸に深く刻まれた。




二度目は高校2年の2月、近畿大会のコート上。
「選抜大会に出場して手術を後回しにするなら、花園は絶望的と言われて。選抜を諦めて、すぐ手術を選びました。」


だが、運命は彼にさらに試練を課す。
手術を経て、応援席から見守った花園予選決勝。
天理は御所実業に敗北した。



再び、最後の舞台に立つことは叶わなかった。
中学でも高校でも、ラストシーズンを完全に走り切ることはできなかったのだ。




だからこそ、青学での4年間には、誰よりも強い決意が宿る。
「大学では後悔なく終わりたい。一日一日を大切にして、気持ちよく引退したいです。」


過去を悔やむ弱さではなく、未来を切り拓く力強さ。その声が、静かに、しかし確かに胸を打つ。







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繋がりが力に変わる場所で


青学で過ごす日々の中で、平澤が最も大切にしているのは“人との繋がり”。

「ラグビーで出会った人たちはみんな親切で。就活でもすごく助けてもらったし、いろんな人と関わる機会がありました。ひとつの縁から、どんどん人脈が広がる。大学でできた縁って、一生ものだなって思います。」




その“縁”を次の世代につなぐために、チームの風通しの良さを守りたいと語った。
「学年関係なく意見を言い合える環境、下の学年でものびのびプレーできて、思い切り挑戦できる。それが今の青学の良さです。」


先輩も後輩も、ただ上下関係で意見を譲るのではなく、仲がいいからこそ本音をぶつけ合う。
今、青学のグラウンドは誰もが思い切り挑戦できる場所になっている。

だからこそ彼は、この風通しの良さを次の世代に残すことを強く願っている。




迎えたラストシーズン。
彼は“やりきる”という言葉を、何度も口にした。

「中高では不完全燃焼で終わった分、大学では後悔しないようにやりきりたい。今ある環境に感謝して、気持ちよく引退したいです。」




卒業後は一般企業に就職する予定だが、ラグビーとの縁を完全に断つつもりはない。
 
ラグビー人生は大学までと思っていた平澤。
しかし、引退が近づく菅平の合宿で、心境は変わった。

“まだラグビーを続けたい。”その想いが、逆に強く湧き上がった。
「いざ最後ってなったときに、まだラグビーに関わってたいなって、逆にやりたくなりました。」


その言葉に、彼の中での情熱と覚悟が凝縮されている。
ラグビーは単なる競技ではなく、人生の一部。

終わりを意識したからこそ、改めてその大切さに気づいた。
そして何より、ラグビーが自分の中に深く根づいていることを実感したのだった。


 


「今日って日は、もう来ない。」 

その言葉には、“当たり前は当たり前じゃない”という気づきと、今を全力で生きる覚悟が込められていた。 
終わりが近づくほど、ラグビーへの愛情は強くなる。




平澤にとって最後のシーズンは、単なる集大成ではなく、次の“縁”へとつながる新たなスタートなのだろう。

「後悔なく、当たり前に感謝して、最後までやりきりたい。」 
そう語る彼の姿は、どこまでもまっすぐだった。
 





インタビュアー:利守 晴(2年)
ライター:内山 りさ(2年)