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大橋宗馬「“挑戦が組織を変える。”創部史上初のアナリスト。」

2025/12/01

ラストシーズンを迎えた4年生のラグビー人生を振り返るラストメッセージ。
第17回は、大橋宗馬(4年/AS/青山学院)です。




ラグビー未経験。ルールも分からない。
それが、創部史上初のアナリストを任された大橋の出発点だった。


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未知の世界だからこそ挑めた道


「ラグビーの“ラ”の字も知らないですけど、大丈夫ですか?」
入部前、当時の監督との面談で、大橋の口から出たその一言は、決して謙遜ではなかった。



彼のラグビー経験は、中等部でのわずか3か月。
以来、ラグビーは“自分とは関係のないもの”として遠ざかっていた。





そんな彼に大学入学後、もとより交友のあった関藤(4年・関藤南)から声がかかる。
「アナリストをやってくれない?」


高等部時代からグラフィックデザイナーとして活動し、デザインやパソコン作業に強みを持っていた大橋。
ラグビーについての知識は無くとも部に貢献できるはず、と見込んだ関藤の考えからだった。

その誘いはまるで、閉じていた扉をそっと叩くような出来事だった。





そして大学1年次の8月、彼は途中入部を決心する。

監督から提示された役割は、ビデオとデータの管理。
ラグビーの知識よりも、誠実さと丁寧さが求められる業務だ。

“人の役に立つのが好きだった”という彼にとって、すぐに「自分でも貢献できる」と感じられる場所だった。





チーム史上初のアナリストを背負う挑戦。

不安もあったが、当時のヘッドコーチの言葉が背中を押した。
「ラグビーに詳しい人は、選手を含めれば既にチームにたくさんいる。今ここで貴重なのは、ラグビー“以外”ができる人だよね。」


その言葉は、大橋に“自分にしかできない役割”の存在を気づかせた。

興味を持てずに遠ざかっていたラグビー。
その世界に、今度は「自分らしく挑めるかもしれない」という期待が灯った。






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ゼロからの変革


「勝っても負けても、仕事量は変わらないんですよね」

4年間を振り返り、そう冗談めいて語ったが、その言葉のようにどんな状況でも冷静な姿が印象的な大橋。
練習の熱や勝敗に左右されず、淡々とデータを積み上げ、チームの準備を支え続けた。




それは、もともと備えていた性格と重なる。
感情の起伏が少なく、冷静で、物事を俯瞰して捉える。


そのぶれない性格が、気づけばアナリストの仕事にぴったりだったと語る。

「自分ができることは精一杯やりたい。任された仕事に責任を持つのはもちろん、ラグビー以外の経験を生かしてチームに貢献できたら面白いかな、と思いました。」





試合の生配信、ドローン撮影の導入、スタッツの再設計。
デザイナーの経験も活かし、チームの広報も支えた。

前例のない仕事を一つずつ開拓したのは、異端な経歴を持つ、彼らしい挑戦だった。


特にスタッツは、必要な項目の整理、色の意味づけ、視線の流れを考えたレイアウトをデザイン。
入部当初までの“ただ数字を並べたスタッツ”を“勝つための武器となる情報”になるように再構築した。


すべて手探りで、誰の真似でもない“ゼロからの挑戦”。





誰よりも遅く入部した彼が、大きくチームを変えた。
その背景にあったのは、“できることには挑戦したい”という、彼の静かな情熱だった。


 


 





 

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後輩と共に歩む挑戦の軌跡


昨年度、初めてアナリストの後輩ができた。
今では2年生に2人、1年生に2人。

アナリストチームの中心に立つ大橋だが、威圧的なリーダー像はない。

「みんなを統率しようと思ったことはないです。組織って、自分の意見で意外と変わる。だから後輩には、どんどん提案してほしいんです。」




アナリストの業務は、彼が試行錯誤で形にしたものばかり。
だからこそ、今ある仕組みは全て未完成。

それを伝え、後輩一人ひとりの意見と向き合い強みを伸ばすことが、彼の考える“育成”だった。






青学に残したいものを尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「ないです。僕たちが引退したら、もう後輩たちの部活になるので。文化に縛られず、自分たちで何を残したいのか吟味して決めてほしいです。」


過去にしがみつくのではなく、次の世代の“変化”を肯定してほしい。
そんな言葉の節々から、自身が挑戦し続けたという実感と、後輩への信頼が伺えた。



「一歩踏み出せば、誰でも組織を変えられるんだと思います。自分は部の中では異端な経歴だし、チームの80分の1の存在だけど、意外と多くのことを変えられました。」





“異端”という立場から始めたアナリスト人生は、気づけばチームの未来を形づくる存在になっていた。

大橋が積み重ねてきた挑戦と、仕事に向き合う誠実さ。
そのひとつひとつが、確かに後輩たちを動かし、チームを変えた。





きっと、彼自身は望まないのだろう。

しかし、変化を恐れず挑み続けた4年間は、これからもチームの中で生き続ける。
彼が歩んできた“異端の道”が、未来を切り開く原動力となる。
 




インタビュアー・ライター:内山 りさ(2年)