関藤南「“最後まで、チームが勝てる準備を。” 主務が背負う覚悟。」
2025/12/05
ラストシーズンを迎えた4年生のラグビー人生を振り返るラストメッセージ。
最終回は、関藤南(4年/主務/青山学院)です。
誰も気づかない場所で、チームを動かす。
裏方として積み上げた経験が、今、彼女を主務として最前線に立たせている。
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支えると決めた日
中等部ではチアダンス部に所属し、舞台で踊る日々を送っていた関藤。
高等部進学を前に、心が惹かれたのは、それまでとは真逆の“裏方”だった。
中等部時代の先輩が、高等部ラグビー部のマネージャーとして努力する姿に抱いた憧れ、そして“高校でしかできないことに挑戦したい”という思い。
この二つが、裏方としての道を選ばせた。
高校3年次でチーフマネージャーを務めた1年間は、彼女を大きく変えた。
人数が少ないチームの新入生勧誘から組織のまとめ役まで、“人を動かし、チームを整える”という仕事の手ごたえを初めて知る。
彼女の代の高等部ラグビー部では、試合出場人数を満たすのがやっとという状況だった。
東京都予選で初戦敗退した時には、行き場のない気持ちがこみ上げた。
「目標に対して届かなかったことへの悔しさはもちろんありました。でもそれ以上に、“人数がいれば”って。出場要件を満たすために、初心者を勧誘して入部してもらったこともありました。」
チームの強化よりも、まず“人”を集めることに力を注がねばならなかった1年間。
人数が少なければ、強いチームに育つことも難しい。
マンパワーの重要性を思い知らされた経験は、彼女にとって大きな学びとなった。
高等部時代の不完全燃焼を胸に、大きな組織でマネジメントを学びたいと志し、大学ラグビー部に入部。
マネージャーは、一年ごとに異なる業務を担当する。
だからこそ、入部時、彼女は自分にひとつの約束を課した。
「毎年、必ず一つ、自分から新しいアクションを起こす。」
この覚悟が、4年間の軸となった。
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見えない仕事でチームを動かす
1年次は申請業務や資料作成の基礎を学び、2年次は広報を担当した。
SNS運用、グッズ管理、外部への発信。
自分の働きがチームの“外側”に届く喜びを知った。
3年次には会計を担当。
金額管理の重圧、“ミスが許されない”という緊張感。
裏方としての責任が、年々大きくなっていくのを感じた。
選手がグラウンドで汗を流す一方で、マネージャーは事務作業に追われる。
ときに、孤独と向き合う瞬間もあったが、入部当初の想いを忘れたことはない。
「スタッフの中でも、一番バックヤードで頑張らないといけない仕事です。踏ん張り時っていうときは、必ず自分の目標を思い出して、チームにいい影響を与えたいという気持ちを持ち続けてました。」
さらに、彼女が力を入れたのは、学生スタッフチームの拡大。
入部当初は8人だったスタッフも、彼女の勧誘とリーダーシップによって、4年間で15人まで増加した。
学生スタッフが増え、組織化されたことは、チーム運営の強化に繋がった。
しかし、試合に向けて運営を完璧に整えても、フィールドで闘うのは選手。
自分たちの努力が結果に直結しないもどかしさを、高等部時代から知っていた。
それでも彼女は、“裏方の仕事が、チームを前に動かす”と、誰よりも信じていた。
4年次。チームへの想いと責任感の強さが評価され、主務に就任した。
青学では三代目となる女性主務。
責任は一気に跳ね上がった。
「正直、選手経験がある方が主務になるケースが多い中での、プレッシャーはありました。これまでのマネージャー業務では試合の時にロッカールームに入ることすらなかった。主務になって初めて、グラウンドで選手の近くに立ち、自分の一挙手一投足が試合状況に影響を与えるんだと実感しました。」
試合運営、協会対応、入替交代の管理、提出書類の締切。
一つの判断が試合の進行や、チームの状況を左右する。
80人の部員を、マネジメント面から率いる主務。
彼女が一年間意識し続けたのは、“コミュニケーションを絶やさないこと”。
コーチ陣との情報共有、幹部との擦り合わせ、後輩スタッフの育成、そして選手から届く声の受け取り。
“選手を経験したことがないから”という言い訳はできない。
だからこそ、全員が同じ方向を向いたチームでいられるよう、選手やコーチ陣の意見を受け止めた。
「チーム運営において、“これを言っておけば好転したかもしれないな”って後悔は絶対にしたらいけないと思っています。プレー経験がなくても、自分が関われる範囲や、チームにいい影響を与えると思っての行動は、常にし続けていいと信じてやってきました。」
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ラストシーズンを勝たせたい
「毎年、必ず一つ、自分から新しいアクションを起こす。」
原点であるこの目標を達成しながら得たものは、“俯瞰力と実行力”と語る関藤。
チームを一歩引いて見つめ、冷静に判断する力。
そして、思いついただけで終わらせず、絶対に“形”にする行動力。
この2つが、主務業を支える土台にもなった。
学生スタッフをまとめる立場としても、この一年間に意義を見つけた。
入部当初から約2倍に増えた学生スタッフ。
マネージャー・トレーナー・アナリスト・学生レフリーの異なるセクションをまとめる立場として、ミーティングを増やし、意見と向き合い、チーム運営を強化した。
高等部時代に人数不足で苦しんだ経験を踏まえ、大学では“人を増やし、意見を反映させ、形にする”という運営を徹底したのだ。
その背中には、学びを忘れずに実行する、彼女の強さがあった。
迎える対抗戦最終節。
今の、そして未来の青学のために、マネジメントに身を削ってきた関藤。
“選手が120%の力を出せる環境をつくりたい”。
その想いは、誰より強い。
「主務になると決まってからの覚悟は、1年間変わってません。最後まで主務としての職務、責務を全うします。」
三代目女性主務として駆け抜けた1年間。
チームの成長も、可能性も。
すべてこの手で掴んできた。
インタビュアー・ライター:内山 りさ(2年)


